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2018/03/16
バリアをバリューに変えるバリアバリュー(前編)

2017年12月16日、当社のコア・バリュー(マテックスらしさ、価値観)とコア・パーパス(存在意義)を社員で再共有し、企業文化を育てる取り組みの一環として「マテックスLIVE」を開催しました。

第一部では、ゲストに株式会社ミライロの代表、垣内俊哉さんを招いて「バリアバリュー~障害を価値に変える~」というテーマで講義をいただき、第二部では、垣内さんと当社代表、松本浩志とのトークセッションを行いました。

第一部の講義は、骨が弱く折れやすい病気で生まれてきた垣内氏が、将来の不安をかかえていたというお話から始まりました。垣内氏は、なんとか自分の足で歩こうと、何度も手術を受け、リハビリに励みますが、その夢は叶いませんでした。
絶望の中で苦しみながらも、自らの生き方を模索し、垣内氏は大学に進学します。
学生時代のアルバイト先で、起こったことが転機となり、垣内氏は「障害を価値に変える=バリアバリュー」という理念をかかげ、起業し今にいたります。

現在では、垣内氏の率いる株式会社ミライロは、企業活動を通じて、障害者や高齢者、LGBTの方などマイノリティーの人たちに正しく向き合う気持ちを育てる「ユニバーサルマナー検定」など、ハードではなくハートから社会を変える取り組みを行っています。

講演内で垣内さんが提示された「バリアバリュー」「障害は人ではなく、環境にある」「ユニバーサルデザインは、社会性だけではなく経済性効果が高い」など多くの貴重な言葉に、参加した社員一同、多くの感銘と気づきを得ました。

≪バリアをバリューに変えるバリアバリュー≫

松本)それでは、このテーマからお話できたらと思います。
垣内さんのお話にありましたが、バリア(障害)をバリュー(価値)に変えるのが、バリアバリューという概念になります。

垣内さんと私が最初にお会いしたのは、マテックスが日本財団のCSR大賞を受賞した2010年のことでした。
その年に、学生さんを対象にした「ソーシャルビジネス〜企業の社会貢献〜」というテーマのイベントを開催しました。そこに、関西から応援に駆けつけてくれたのが、当時学生だった垣内さんなのです。

そして、垣内さんが起ち上げた会社ミライロが行っているものが正に「ソーシャルビジネス」だと思います。
そのミライロについて、中期的に2020年に向けて、会社の目標をどこに置かれているのか教えていただきたいと思います。
また、差し支えなければ、リアルな数字的なお話も伺えればと思います。

垣内)はい、昨年のことですが、ものすごい会社を知りました。スペインの「イルニオン」(ILUNION)という会社です。
イルニオンは今、3万人の従業員の内、32%の約1万人が障害のある社員なのです。行っている事業は多岐に渡り、ホテルの運営や、コンサルティングもしています。
数がすべてではないですが、この32%には感心し、感動し、震えました。と、言いますのも、世界的に見れば障害者の割合は15%と言われています。
日本の障害者人口はおよそ6%なので、会社の中に6%くらいの障害者がいてもおかしくありません。

ミライロの社員は15%が障害者ではありますが、世界では30%の会社もあるわけです。
そういったことを考えると、2020年、その先の未来に向けて、ミライロとしては障害のある方を義務としての雇用ではなく、戦力として雇用するのが当たり前の社会にしたいと考えています。まさにバリアをバリューにする、その先駆者となるべく走り回っているところです。

松本)すばらしいですね。今、障害者雇用というものは、どちらかというと義務として捉えられているかと思います。
私どもマテックスも今年に入って、企業を評価するある審査を受けました。
審査する側の考えとして、企業の発想の中で障害者雇用は当たり前である、特別なことではないとしているのが強く印象に残る審査でした。
改めて今年良い機会をもらったかなと思っています。現状では弊社の障害者雇用率は2.5%です。

垣内)すばらしいですね。

松本)障害者雇用については、もっと自然に広めていきたいと思っています。そのためには、ハード面ばかりではなく、ソフトを重要視したソリューションが必要だと考えます。

垣内)その通りですね。マテックスさんはもちろんそうではないと思いますが、多くの企業において、障害者の離職率がすごく高くなっているのが現状です。周囲の人の態度や対応が合わないという心理的なバリアを感じて辞めていくことが非常に多いのです。

その要因は、(健常者が障害者に対して)無関心か過剰の両極端になりがちであるからです。
また、特に注意すべきなのは、有事の際のサポートです。2011年の東日本大震災時には、障害のある方は健常者の2.5倍の人数が亡くなられたと報告されました。
これは逃げ切れなかったこと、周囲のサポートを受けることができなかったことを示しています。

働きやすいのはもちろんのこと、有事の際には障害のある社員の命も守れる環境であることが重要です。そのために、ハードもハートも変えていくことが必要不可欠だと思っています。

松本)本当にそうですね。正直なところ、私どもも過去には、障害のある方との向き合い方に課題があると感じるシーンがありました。しかし、それを悔やんでいるだけでは意味がなくて、大切なのは、その経験を無駄にしないことなのだと考えています。

垣内)そうですね。次に活かすのが大切です。松本次の議題ですが、「見えるハードと見えないハート」。これが肝心だと思っています。.
見えるハード。見えないハート。

松本)昨年、ユニバーサルマナー検定を受講させていただきました。最近、企業のユニバーサルマナー教育がよく話題にのぼりますし、その教育を実践に活かしている企業も増えてきていると感じます。企業のユニバーサルマナー教育の現状での課題やテーマについて、我々が知っておくべきものがあれば教えていただきたいのですが。

垣内)そうですね。ユニバーサルマナーは、見えない部分だからこそ難しいですが、いかに多様な方の視点に立てるかだと考えています。
マテックスさんの「コアバリュー」、チームの多様性を大切にし社員の声に耳を傾けるという考え方がまさにそうです。

例えば、昨年4月に施行された「障害者差別解消法」があります。この差別解消法という法律ができたことで、多くの企業は障害者に対してしかたなく対応しているのが現状です。みなさんも記憶に新しいと思いますが、今年(2017年)の中頃に、ある航空会社がひとりの車椅子ユーザーの搭乗拒否をしたと報じられました。
対応が柔軟ではなかったとその航空会社はバッシングを受けたのですが、本当の問題はそこではないのです。

現在、国内の駅・空港でバリアフリー化を義務付けられているのは、基本的に1日に3,000人以上の利用者がいるものに限られています。
以前は5,000人でした。次の法改正ではこれが1,500人になると言われています。先ほどの舞台になった奄美空港は、1日1,584人なので対象外。対象外があるということ自体も問題なのです。
そうした中で日本は差別解消法を施行したものの、海外に比べれば緩い内容です。

アメリカやイギリス、近くでは韓国は、もはや法定義務になっていて、店舗がバリアフリー化されていないと、訴えられるケースが増えています。
アメリカでは、年間約8万件の訴訟が起きていて、その内約15%に賠償責任が生じています。一番多額だった賠償額が10億円ということで、法律が厳しすぎるために、もはや多くの企業にとって障害者は恐れる対象になってしまっています。

日本の場合、この差別解消法は法的義務ではなくて、民間に対しては当面は努力義務なので、今は、やってもやらなくても良いということになります。ユニバーサルデザインもユニバーサルマナーも同じです。

ただ、3年ごとに法改正が予定されており、次の改正はオリンピック、パラリンピック1年前というタイミングもあり、ここで法的義務になるであろうと推測されています。それであれば、今からできることを着実に進めて、社員はもちろん、取引先のお客さまも含めて、社会全体にその考え方を浸透させていくことが必要なのだと思います。
周囲の企業や他の業界が取り組んでいるから仕方なくやるのではなく、「先を引っ張って行こう!」という姿勢で向き合うことが大切なのだと思います。

松本)なるほど。そういう話は、遠い先の話ではなく、もうそこまで来ているのですね。

垣内)ユニバーサルマナー検定を始めたのが2013年です。初年度こそ5,000人に満たなかったのですが、2017年3月末の時点で6万人の方が受講されます。2020年までには、約20万人に増えると予測しています。

松本)2020年までにですか?垣内2020年までの3年間で、現在の約3倍の受講者数を見込んでいます。
全国に展開しているショッピングセンターの社員の方や、ある中学校、高校、大学では必修になる方向に進んでいます。そうやって、大人も子どもも変わっていくことで、日本全体を動かすひとつのムーブメントに成りつつあります。

松本)素朴な疑問なのですが、ユニバーサル検定を受ける方が増えていることに対して、教える側はどうでしょう?

垣内)現在、障害のある講師を100人養成しようということで、全国各地の障害のある方々に講義の方法をレクチャーして、各地域で講義ができる準備を進めています。今まで市区町村で企画された、障害者のことを学ぶボランタリーなイベントでは「障害のある方が困っていること聞く」というものがほとんどでした。

参加費も無料のケースが多く、その場合、講師も無報酬で行うことになります。
それでは講演する側もプロ意識を持てません。その結果、同情を買うだけの話になってしまうと”障害のある可哀想な人”で終わってしまいます。

そうではなく、適切なことを適切な言葉で伝えるトレーニングを積んだ講師が行き、それに見合う対価をいただいています。ミライロの講師は、講壇に立つまでに約1年間のトレーニングを積んだ上で講演に臨んでいます。

松本)力強いですね。マテックスの社員も、昨年、リーダープラスの講義を受講させていただきました。この経験を活かして、段階的にではありますが、まず、産休の取得を進めることで社内のユニバーサル関係を築きたいと考えています。

それとあわせて、社内だけではなく、取引先やお世話になっているお客さまに対しても、ユニバーサルデザイン、ユニバーサルマナーという考え方を一緒に共有していきたいと常々思っています。
その部分でもミライロさんのご協力をいただきたいと考えています。ぜひ、ご一緒させていただければなと思います。

垣内)はい、ありがとうございます。

(後編はこちら)
https://www.matex-glass.co.jp/topics/article_3017.html