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2017/08/29
マテックスフェアー2017セミナー講師、村田佳壽子様との対談企画「パリ協定と窓業界の使命」(前編)

≪パリ協定と窓業界の使命≫

松本)本日は、メディアはもちろん、行政、大学や民間企業など、様々なポジション、様々な角度から、幅広く「環境」について研究されている、環境ジャーナリストの村田佳壽子さんをお招きしました。「パリ協定」というキーワードも記憶に新しい昨今の環境問題、その中で窓業界が果たすべき使命について考えていきたいと思います。
まず、2015年12月12日にパリで採択された「パリ協定」ですが、これまでとは違った画期的なものだった聞きました。どんな内容なのか、教えていただけますか。

村田)パリ協定とは「気候変動枠組条約締約国会議」のことです。1997年に京都で行われたCOP3「地球温暖化防止京都会議」から数えて、今回のパリ協定がCOP21ということになりますね。特に画期的だったのは、世界各国が批准しやすいように法的拘束力をなくしたことと、従来のCO2排出削減量を各国各々に%で割り当ていたのをやめ、全世界で地球全体の卑近気温の上昇率を産業革命時点から2度未満、できれば1.5度までに抑えるとした点です。

松本)これまでは、地球温暖化への各国の取り組みに対して、法的拘束力を持たせていたわけですね?

村田)はい。温室効果ガス削減の数値目標を設定し、達成できなかった場合の罰則も決められていました。ところがこの法的拘束力のせいで、世界で最もCO2を排出する中国やアメリカ、インドネシアなどが、自国の利益を優先するあまり議会が承認せず、参加に批准(同意)しない。「CO2排出量の少ない国ばかり取り組むのはおかしい、不公平だ」ともめてきたんです。

松本)温暖化がこれだけ進んでいる今、結束して事にあたらなければ未来はないですよね。
村田)そのとおりです。今後さらに温暖化が進めば、人類が枕を並べて討死ということになりかねません。そこで、条約ではなく協定にしました。パリ協定では、各国のチャレンジ目標を設定し、法的拘束力を排除。5年毎に目標の見直しをしながら「具体的にどんな策を講じてきかたか」「達成できたか」「できなかった場合の理由と具体策は」などの報告を行うのみとなりました。もはや「罰則があるから取り組む、無ければやらない」というような呑気な事態ではない、ということで協定が成立したんです。

松本)具体的なチャレンジ目標などはあるのでしょうか?

村田)各国の状況にあわせて「自分たちで」考えることになりました。努力はすれども無理はせず。これも画期的なことです。2017年11月にはドイツのボンでCOP23が開催されますが、日本がどのような対応をとるのか注目されています。

松本)なるほど。では、昨今の環境問題への意識と、企業の関係性について教えてください。

村田)まず何より、企業としての責任が重くなっているということですね。環境に配慮しない企業には、いかなる場合も融資は行わないと、世界約46の金融機関が宣言しています。環境問題に力を入れている企業こそ、今後の成長が望めると判断する時代になっているのです。パリ協定が生み出した、環境問題への意識改革の大きな特徴のひとつかもしれません。

松本)それでは、村田さんが考える環境問題について教えていただけますか。

村田)私は「人間の在り方の問題だ」と考えています。「何を大事だと思うのか」「何を幸せだと思うのか」といった究極的な価値観、哲学の問題につながっています。ここに触れないで、単に「ゴミをリサイクルしましょう」「節電しましょう」といっても解決にはなりません。人間の在り方、精神的な在り方から発生してくるものだと考えています。

松本)深いですね。最近では工業化も一層進んで、環境破壊がいよいよ心配ですね。

村田)遡れば産業革命当時、化石燃料の利用で工業用エネルギーが増えた分、CO2も爆発的に増えていきました。その頃は地球の資源が無限だと思われていたんです。「地球がキレイにしてくれるから大丈夫」「困ったら地球へ頼もう」。人間の都合のいいところだけ使って、後は捨てるという歴史を繰り返すうちに、徐々に生態系が壊されてしまったんですね。

松本)人類の大きな失態ですね。

村田)はい。ようやく1968年にローマクラブというシンクタンクが「地球や資源は有限である」と宣言し、「オンリーワン・ジ・アース=かけがえのない地球」と言う言葉が広がりはじめました。ところが、日本は経済成長の真っ只中。環境のことなど考える暇もなく、豊かさばかりを追求していたんです。その一方で、1万人以上もの人が亡くなった「ロンドンスモッグ事件」(1952年)などの辛い経験を経たヨーロッパ各国が、いち早く環境問題に着手しはじめたんです。

≪窓が抱える環境問題を発信≫

松本)環境に関する取り組みは、私たち窓業界にとっても重要なファクターです。窓は暮らしの中に当たり前に存在しているのに、窓が起こしている問題というものには誰も目をむけない。私もこの業界に入った当時、大きな衝撃をうけました。

村田)窓によって起きる環境問題ということですね?

松本)はい。例えば、住宅エネルギーの熱は50〜70%は窓から逃げていってしまいます。エアコンの設定温度や使用頻度も上がり、CO2排出量増加にも起因するわけです。ところが、窓が起こすその現状を認識して話題にする人はほとんどいません。窓を扱っている業界、企業である以上「環境」というものを中心において事業を営むべきではないかと思っています。これまでも色々な活動を行ってきましたが、最近は、更に1段2段深く理解しなければならない局面にさしかかっていると強く感じ、窓業界として何をすべきか模索しているところです。

村田)窓と環境問題の関係性への理解不足ですね。どんなに高性能な窓でも、買ったお客さんがその窓によってどのような生活を送ることができるのか、どんな経済状態になるのか、ひいては今の地球環境にどのような影響を与えるのか、というところまで、なかなか繋がっていかないのではないでしょうか。
実はアメリカやヨーロッパでは住み替え需要が多く、住宅が一生の買物とは思っている人は少ないんです。その一方で、一生の宝物という思いが強い日本人にとっては、いかに快適に過ごせるかの方が関心は高い。とはいえ、日本はそもそも気候に恵まれた国です。生活環境が良かったからこそ、窓問題への認識が発達しなかったのかもしれません。

松本)それでも、最近は人間の活動によって日本の生活環境も変動してきました。

村田)本当ですね。ゲリラ豪雨が頻発したり、北海道の大雪で死者が出たり。熱中症にしても、4割は家の中で発生しているそうですから、窓に対していかに注意が注がれていないかがわかります。壁の断熱まで意識がいっても「実は窓から」というところには気付かず、基本は全てエアコン頼み。夏の気温が上がるたびにエアコンを買い換えて、それでも改善できないとなった時、ようやく窓の問題に気付くのではないでしょうか。

松本)他の国はどうなんでしょうね。

村田)スウェーデンでは、30年以上前に窓の問題に気付きました。1年のうち半分が冬という、とても寒い国だったことで、寒さ対策が発達しましたが、一方で、当時世界一高齢化が進んでいる国。お年寄りが室内で脳出血を起こして倒れることも多く、やはり女性に介護負担がいきますから、女性は外で働けない。男性だけでは国が立ち行かないばかりか、お年寄りが倒れるたびに医療費があがり、このままでは国が破産に向うという、国家レベルの問題を抱えることになりました。

松本)深刻ですね。そこで窓に注目がいったのでしょうか?

村田)はい。実はお年寄りだけではなく、40代、50代の働き盛りの脳出血も少なくありませんでした。「なぜ倒れるのか」「どうすれば防げるか」を考え、辿りついたのが「窓」でした。窓から熱が出入りするため、いくら暖房を効かせても温かさが逃げていく。廊下と部屋、トイレやお風呂の温度差によるヒートショックで、脳出血を起こす。医療が進んだおかげで命は助かるものの、寝たきりになってしまう。スウェーデンでは、すでに30年前そういう事態が起こっていました。

松本)日本でも温度差による脳出血は問題視されていますよね。

村田)まず検討されたのは、部屋の中と廊下やトイレなど部屋以外の家の中の温度差をなくすこと。暖房を効かせてエネルギーを消費するのではなく、出ていくエネルギーを減らすことを考えました。つまり地球環境にも配慮した方法です。壁と同じように窓の断熱を行い、室内の温度を均一化することで、脳出血は激減。様々な研究の成果で医療技術も進歩しました。スウェーデンは、環境問題への気づきが早かったんです。地球の環境問題を解決することと、健康問題を解決することが「イコール」だということが、窓問題の解決から分かったんですね。

松本)熱性能をしっかりと考えなければ、地球と人間、両方の問題解決ができないということですね。

(後編はこちら)
https://www.matex-glass.co.jp/topics/article_3015.html