マテックスの“働き方改革”、“ワークライフ・バランス”の取り組み方

右が石塚しのぶさん、左が弊社代表・松本浩志

▲左が下田直人さん、右が弊社代表・松本浩志

下田

ところで、御社では“働き方改革”や“ワークライフ・バランス”にどのように取り組まれているのですか?

松本
まず大前提として、私が社長に就任して以来、理念経営に取り組み始めたことがあります。理念そのものは、お客様や取引先から創業以来80年にわたってご支持いただいてきた考え方や企業姿勢を先輩方から教えていただいて、私がまとめました。しかし、理念は社員一人ひとりが腹落ちし実践してこそ意味があるものです。そこで、理念を実践するための行動基準を社員全員に考えてもらったのです。これを10の“コア・バリュー”に集約しました。自分たちの会社はこうあるべきで、自分たちはこういうふうに行動しようという価値観を社員自ら明文化したわけです。
下田
それは大変素晴らしいですね。
松本
ありがとうございます。そうしたプロセスの中で、自分たちの働き方も考え直していきました。過去の働き方を否定するでも肯定するでもなく、事業や生活の環境が変わる中でどういう働き方が幸せなのかということをみんなで考えたのです。これも、私の考えが正解というものでは当然にありません。一人ひとり違って然るべきですから。

松本浩志

下田
会社がそのように社員自身で能動的に考える場を提供しているところがいいですね。自分自身が幸せであるためにはどうすればいいかを考える機会があれば、そのことについてPDCAを回すように無限に発展させていくことができると思います。そうではなく、受動的だと「社長の言っていることはちょっと違うと思う」で終わってしまいますから。
松本
自分の幸せは与えられるものではなく、自分で探して自分のモノにしていこうとすれば、働き方も自ずと変わると思います。
下田
なるほど。組織づくりは、ボトムアップであるべきとお考えなのですね。
松本
会社はトップがつくるものかと考えた時に、そうではないと。トップはある程度の方向付けやコンセプトづくりはするけれども、それを実現させるのはメンバーです。つまり、コンセプトはメンバーのものにしてもらわなければなりませんから、トップの独りよがりでは決してうまくはいかないと思います。“働き方改革”も“ワークライフ・バランス”も、社員自ら“自分ごと”に捉えてリアルに中味のあるものにしていかなければ、本質的なものにはならないと思っています。
下田
松本社長のリーダーシップのあり方は、先頭に立って「俺についてこい」というよりも、後ろから見守りつつ背中を押していく“サーバント・リーダーシップ”のようにお見受けします。まだ少数派だと思いますが、そういった考え方は以前からのことですか?
松本
過去のリーダーシップのあり方は、それぞれ時代環境に応じた形で行われていたと思います。当社が属する建設関連の業界では、長年、トップダウンのリーダーシップで行われていましたし、当社も例外ではありませんでした。それを否定するわけではありません。ただ、経済が成長する間はそれでよかったのでしょうが、先を予見することが難しくなっている今、そういったスタイルだけで通用できるとは思えません。現場の一人ひとりが自分の頭で考え、判断し、進めていかなければならないと思うのです。だからこそ全員が同じベクトルを共有するために、企業理念やコア・バリューを定めたわけです。トップのあり方としても、現場の一人ひとりを後ろで見守り、支援することで安心してチャレンジしてもらいたいとの思いに辿り着きました。
下田
コア・バリューができたことで、社員の働き方はどう変わりましたか?
松本
コア・バリューに共感する人が自分の言葉で再発信してくれるようになり、どんどん広がっていったと感じています。企業風土は一変し、みんな主体的、自律的に仕事するようになりました。これがコア・バリューの凄いところですね。
下田
広がりだけでなく、深まりも出たわけですね。先輩が後輩に説明する時に、実体験で話せる効果が大きいと思います。
松本
聞いた話ではなく、自分の体験を話せる強さですね。
下田
いい循環ができているのではないかと思います。

“働き方改革”の一環としての“ポジティブワーク”

松本浩志

下田
さて、そんな御社では“働き方改革”の一環として“ポジティブワーク”という考え方を掲げて取り組んでいると伺いました。これはどういったものなのでしょうか?
松本
生産性を高めるための“働き方改革”という大上段に構える取り組みではなく、「よりパフォーマンスを発揮して成果を上げるためにポジティブに考えてみよう」というメッセージを込めた、肩肘張らない取り組みをイメージしています。例えば、1日はどれぐらい仕事をする時間があるのか、今までは考えていたとしてもボンヤリとしたものだったのではないかと思います。当社の定時は7時間30分です。その範囲内で、最大のパフォーマンスを上げるためにはどうすればいいか、一度立ち止まって考えてみようということです。誰かが環境を整備してくれるのではなく、自分たちで考え、実践して初めて変えていけるわけですから、ポジティブに前向きに取り組んでいきましょうという思いですね。先ほどの“ワークライフ・バランス”の議論にもありましたが、そのように働き方を主体的に考えることで、生活者としてもより能動的に充実して過ごせるという思いもあります。
下田
社員は仕事だけ成果を上げればいいというわけではなく、生活者としてもより充足してほしいということですね。
松本
会社ではお客様にサービスを提供する立場ですが、会社を一歩出れば生活者としてサービスを提供される側になるわけです。そこで、一方的に提供されるものを受け取るだけではなく、時代環境の変化に合わせて様々な教養を身につけることで、より賢い生活者になれるのではないかと思います。プライベートの時間は、何も遊びだけということでもないでしょう。人として成長していくために、学びを手に入れる時間も必要かと思います。
下田
なるほど。

松本浩志

松本
そしてここでも仕事との裏表があり、サービスを提供する側として、相手に対してのリテラシーを高めてもらうように発信していくことも必要ではないかということです。そのようにお互い高めていくことが、いい社会づくりには必要なことのように思っているんです。そこも含めての“ポジティブワーク”ですね。
下田
会社全体で労働時間を何%カットするといった話ではなく、もっと本質的なライフスタイルやワークスタイルを考えていこうということですね。
松本
定量的なターゲットも有効かと思いますが、それ以上に、なぜそういう目標を掲げるのかという本質に目を向けてサポートすることが企業には求められていると思っています。
下田
お客様に対する仕事の進め方も、家庭における時間のつくり方も何か深めていけるような感じがしますね。取引先も家庭も、御社が発信源や触媒となって変わっていけるように思います。
松本
当社の生き方は、卸売事業者として単に商品を卸すということではなく、地域のガラス店さんや工務店さんというお客様でありパートナーのお役に立つということです。ですから、当社だけ変わればいいというのではなく、地域のガラス店さんや工務店さんに寄り添って、社会全体で働き方を変えていきましょうといった姿勢も必要だと思っています。
下田
松本社長のお話を伺っていると、御社には“共に”というキーワードが色濃くあるように思いますね。社員と共に、地域と共に、お客様やパートナーと共に、と。
松本
それ、いいですね。ぜひ使わせていただきます。
下田
それと、問題の捉え方や取り組み方がとてもポジティブですよね。
松本
私は現状改善していく必要があることを“問題”と捉えることが好きではなく、必ず“課題”と捉えることにしています。そのほうが前向きに心地よく取り組めるように思えるからです。
下田
もう一つ感じるのは、腰を据えてじっくり取り組んでいるということです。短期で変えるのはセンセーショナルで刺激的ですから、世間の話題にもなりやすいですし飛びつきたくなるものです。しかし、早く染まる染物は早く色落ちするといわれているように、効果も長続きしません。その点、御社は時間と手間をかけて着実に取り組まれていますよね。
松本
変えるといっても、これまでの歴史的な経緯があります。伝票の流し方一つを見ても、長い時間をかけてそういうやり方に辿り着いたわけです。ですから、思い描く方向に持っていくには時間がかかると思っています。働いている社員もただ今現在やらなければならない仕事がありますから、短期的に変えようとするとひずみがでてしまいます。テーマや相手に応じてどのように時間をかけるかは、とても大事なことのように思いますね。ただし、決してのらくらやるのではない。時間を意識しつつ丁寧に対話し、一つひとつ理解を深めて進めていくことが大切だと思っています。

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